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I Remember Berklee ⑩

今のところ月曜日に授業はない。エリザベスのアドバイス通り、さっそくアンサンブルオフィスへ行った。結構混んでいる。いったいここでどうやって手続きをするのか?と周りを見て観察した。エリザベスは授業に行ってしまったので、今日は一人で「アンサンブルクラスを取る」ということをしなければならないのである。壁に貼られた表を見るものあり、用紙に記入するものあり、受付に並ぶものあり、と皆それぞれ忙しそうである。やがてわかった。まず壁にはアンサンブルクラスの名前、時間、曜日、編成楽器、担当講師、ジャンル、レベルなどが書いてある紙が貼ってあるので、それを見てクラスを選び、用紙に記入、そして受付に提出するらしい。(どれどれ・・・)表を見て、まず自分のレベルを探した。オーデションの結果、私のレベルは4443という数字で表されていた。これはリーディング力、即興力、コンピング力などを示しており、レベルは1から9まである。4はもっとも平均的なレベルで、大体の人は卒業までに3~6.7くらいになるようだ。ジャンルはほとんどジャズなので、あまり気にせず、でも間違ってロックを取ったりせぬように見ていった。時間帯が他のクラスと重ならないように細心の注意を払い、5つほどメモしてみた。これを皆が持っている用紙に記入しなければならない。(用紙はどこだろう・・・)それは箱に入って無造作に廊下に置いてあった。1枚つまんで列の最後尾に並び記入しながら待った。私の前にはラテン系の男子学生がいる。彼はやはりやり方がわからないらしく、その前にいたアジア系の学生にしきりにいろいろ聞いている。アジア男はたぶん新入生でない日本人だろうと思った。2人は自己紹介などをして、同じギタリストであることを喜びあっていた。アジア男は英語がとっても上手である。(アメリカに何年いたらあんな風に話せるようになるのだろう・・・?)2人の話をぼーっとしながら聞いていた私は思った。高校をでてすぐ留学していたら今よりは英語もかなり上達するだろう。30才前になってあわてて突貫工事のごとく勉強してなんとか入学にこぎつけた私の英語でこの手の手続きを乗り切るのはいつもどきどきであった。そうするうちに私の番になった。クールな白人男性スタッフがコンピューターで検索してくれる。が彼はクールに言った。「キミがここに書いたクラスは全部埋まっている」それはつまりもうすでにピアニストがいるということだ。(う~困った)しかしクール男は「他に取れるアンサンブルクラスがあるかどうか見てみる」と再びコンピューターに向かった。いくつかのクラスがあったがどれも他の授業と重なっていて時間が合わず私は焦った。(たのむよ~)アンサンブルクラスが取れないと私がここバークリーに来た意味はあまりないような気がした。「これはどう?」彼はそういってコンピューターの画面を指差した。「え~っと、月曜日の2時から4時なんだけど・・」「いいです!いいです!」思わず叫んだ私にクールな彼もにこっとして書類にサインしてくれ、コンピューターから新しいスケジュール表を出してくれた。クラスは来週からだ。これで無事アンサンブルクラスが取れ、取得授業数は11クレジットとなった。あと2クレジット取れるので、何をとるか今日のうちに決めてしまおうと思った。科目を追加するにはレジスターオフィスに行かなければならない。私はオフィスのある1140ビルディングにむかった。本当にどこも混んでいる。レジスターオフィスも然り。仕方がないのでまた並んだ。自分の番がくると、「あと2クレジット残っているのだが、どんな科目を取ったらいいか?」とメガネ黒人の受付の彼に聞いてみる。すると「そういうことはここではわからないので、専攻楽器のチェアマンに聞いてくれ」と言うのでm、そこからチェアマンがいる4Uのオフィスに向かった。ここも混んでいたが辛抱強く待った。「そうだねぇ・・・このクラスならまだ空いているが・・・」チェアが私に勧めたのはジャズ・インプロビゼーション・テクニックというクラスだった。そしてそのクラス担当のジャッキー・ビヤード教授のオフィスアワーを教えてくれた。「今日の2時が空いているらしい。150ビルディングのM2という部屋を訪ねてくれ」あちこちたらいまわしのようになっているがこうやって科目をとっていくのか・・・と納得した。

2時になるのを待ってM2のオフィスに行くと、ここでもやはり何人かの学生が教授を待っていた。オフィスも広く、秘書が何人もいて学生をさばいている。ジャッキー・ビヤードはかつてミンガスワークショップのピアニストのジャッキー・バイヤードに名前が酷似しているが、まさか同一人物ではあるまいか・・・などと思いながら待つと、「次はあなたかしら?」秘書が私にそう言い、私はジャッキーのオフィスに入った。ジャッキーはハデなシャツを着た、黒人の太ったおっさんである。バイヤード氏とは違うことを認識したが物腰がとってもお上品だ。オジサマと言ったほうがいいかもしれない。「ジャズ・インプロヴィゼーション・テクニックのクラスを取ろうかと思うのですが・・・」私はそう言いさらに思っていることを付け加えた。「このクラスが演奏中心の授業になるのなら取ろうと思います。でも、講義中心になるなら、英語に自信がないので取らないつもりです」するとジャッキーは言った。「実はこのクラスは講義中心のクラスになる。しかしもし君が英語を理解できなくても私は君を助けるよ。それに君の英語は全然変じゃない。」その言葉を聞いたとたんふっと気持ちが楽になった。そしてこのクラスを取ってみようと思ったのだ。

これで13クレジット分のクラスを取ることができた。あと今日のうちに済ませたいことと言えば、日本から持ってきた100ドルのトラベラーズチェックを銀行に預けることだ。今のところ、スーツケースを金庫代わりにしてしまっているが、セキュリティーからの話では、パスポートなどの貴重品も部屋においておく方が安全だと言う。しかし100ドルはあまりにも大金なのでちょうど部屋に戻ってきたエリザベスと一緒にバンクボストンに行った。バンクボストンはこれまた便利なことにバークリーの向かい側にある。

銀行の中はたくさんの学生らしき人たちで混んでいる。入り口に立っているセキュリティは黒人の中の黒人といった感じで真っ黒くて目つきも鋭くちょっと怖い。待つこと20分、やっと窓口にいる若いおねえさんが私を手招きした。驚いたことに何か食べているらしく口をもぐもぐさせている。日本の銀行では絶対に見られない光景だ。しかし私が預けたいと言った100ドルと引き換えにくれたのはぺらぺらのレシート1枚である。(通帳はないのかなぁ・・・)あとで100ドル預かってませんなんて言われたら私はたぶん気絶するだろう。不安をおぼえたが万が一の時はこのレシートを見せて、ぎゃあぎゃあ騒げばいいと思い、一応すっきりした気分で銀行を出た。

この頃の私は表向きは元気だったが、ややホームシック気味だった。ホームシックというよりは、授業についていけるだろうかという不安や、友達ができるだろうかという不安があったのだ。来年の5月まで日本に帰らないつもりだったが、やはり12月の冬休みにいったん帰ろうかと思ったり、帰りの飛行機のチケットを机から出して何度も見たりと、今から考えればやはり少し変だった。

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