« I Remember Berklee ③ | トップページ | I Remember Berklee ⑤ »

I Remember Berklee ④

Elizabeth(エリザベス)

「コンコン」とノックの音が聞こえた。時計を見ると4時をまわったところだった。ドアを開けると、ルームメイトのエリザベスが立っていた。「ハーイ、ハロー」グレーのソバージュヘア、瞳もグレーで、背は私よりも低いがはっきりとした顔で美人である。「よろしくね」「こちらこそ、あっ、彼はエクストラハズバンドなの・・・。」見ると彼女の後ろににこにこしている男性が立っていた。でも気のいいおじさんという感じで、なんだかエリザベスとはお似合いでないような気がした。それにしても「エクストラハズバンド」ってなんだろう・・・?とぼんやりしていると、「今、私の荷物を取ってくるわ」と言い、二人は出て行った。しばらくして戻ってきた彼らを見て、私はびっくりした。2メートル四方ほどのばかでかい箱、そしてそれより少し小さい1メートル四方の箱が全部で6箱運ばれてきた。エクストラおっちゃんが手際よくそれらを開けていくと、ものすごい数の洋服、組み立て式の本棚、CDラジカセ、テディベア、なんと観葉植物まで出てきた。私も自分のスーツケースを開けて洋服をたんすに入れたり、机にノートをしまったりしたが、たいした荷物はなく、5分ほどで終わってしまった。別便で自分宛に荷造りし、あとで母親に送ってもらう予定の荷物がダンボール1箱あるがそれも必要最低限のものである。「上と下、どっちに寝たい?私はどちらでもいいわ」私は下を希望した。そこでさっき買ったばかりの豪くんとおそろいのシーツを少し照れながら敷いて、毛布を足元に置いた。が、それもあっという間に終わってしまったので、「何か手伝おうか?」とエリザベスに言ってみたが「いいえ、大丈夫よカレがいるし・・それより長旅で疲れてるんじゃない?少し休んだら?」いやいや、さっきまでうとうとしていたのだが、エリザベスがそう言うのでお言葉に甘えてまたベッドでごろごろすることにした。エクストラおっちゃんも「日本からじゃあ遠いだろう。何時間くらいかかったんだい?」などと言いながらエリザベスの洋服をぱっぱとクローゼットにかけている。クローゼットにはエリザベスの衣装約30点と、私の一着しかないジャケットが並んだ。「トゥーマッチスタッフ!!」(物がありすぎるわ!!)といいながらそれも少し片付いた頃、「私は今からカレと夕飯を食べに行くけど、あなたはどうするの?」と、エリザベスが言った。「うーん、今日からここのカフェテリアで食べられるなら食べるわ」私が答えると「そう・・・でも一人じゃかわいそうね・・・。ちょっと待ってて。」なんと彼女は向かいの部屋に行き、一人の男の子をつかまえ、「彼女と食事に行ってあげてくれる?」と言った。そしてこちらに戻ってくると「彼、ケイシーっていうんだけど、一緒に食事に行ってくれるって!じゃあ、またねっ!」と勝手にこの場をまとめ、あっけにとられている私を置いて、エクストラおっちゃんと消えた。逃げるわけにも行かないので、ケイシー高峰?と私はエリザベスに言われたとおり、素直に地下のカフェテリアに降りていった。受付で名前をチェックされ、トレイを持って好きな食べ物を取るコーナーとおばちゃんにわけてもらうコーナーがあるみたいだ。でもあまりおなかが空いていない。仕方なくサラダを取った。しかしそれにかけるドレッシングの種類がよくわからず、「これでいいや」と選んだものはなぜか「ゲロ」のようなにおいのするとんでもない代物だった。空いているテーブルを見つけ、ケーシーと向かい合わせで座ると、彼はサラダしか取っていない私のトレイを見て、「キミはベジタリアンか?」と言った。「そういうわけじゃないけど時差ぼけみたいで、あまりおなかが空いていないの」見るとケーシーの選んだ食べ物もあまりおいしそうではない。彼はたぶん異なる文化を持つアジア人の女なんかと食事するのは初めてなのだろう。私の必死のヒアリングの結果、彼はシカゴ出身、専攻楽器はフィドルで好きな音楽はブルーグラスであるということがわかった。ジャズ好きの私とは話が合いそうもないが、部屋が向かい合わせなのであまり邪険にはできない。私は一生懸命いろいろ話した。

きゅうりがすごく大きい。そしてぱさぱさでちっともみずみずしくない。トマトもただざくざく切っただけでいかにも農薬をたっぷり浴びていそうだ。その上ドレシングが「ゲロ」のにおいときたら・・食事は10分もかからない。私たちは早々にカフェを出た。

部屋に戻って間もなくエリザベスも帰ってきた。今度はエクストラおっちゃんは一緒ではなかった。しばらくの間お互いのことをいろいろ話した。エリザベスの実家はテネシー州で両親とお兄さんはそこにいるが、彼女は10年前に一度バークリーに入学し、3年後結婚のため休学、だが今回離婚して復学した、ということであった。ここでどうやらエクストラおっちゃんは「元亭主」だということがわかった。二人でジョージア州アトランタから来て、年は32歳で私の3つ上だ。専攻はヴォーカルで10年前はパフォーマンス科だったが、今回はミュージックセラピー科に変更するらしい。実家のお父さんは医者で、お母さんも今は引退したが、以前は看護師としてお父さんを手伝っていたそうだ。「病院で音楽療法を必要とする人たちのために働きたい。」と言った。

無事、ルームメイトとも対面できてほっとした。明日からはまたいろいろなオリエンテーションに参加しなければいけないのでシャワーを浴びて寝ることにした。シャワーの温度調節が難しく、うっかり水を多めにしてぶるっとした後、今度は熱くしすぎて「うわちゃ!うわちゃ!」と意味不明の叫び声をあげてしまったりしながらなんとか済ませた。

ボストンの緯度はだいたい北海道札幌市と同じくらいである。しかしこの時期すでに涼しいのかと思ったらそうでもない。エリザベスは「あつい、あつい」と言いながらミニ扇風機をまわしている。私にとってはそこまでする暑さではないのだが・・・。「ちょっと寒いなぁ・・風邪ひきたくないなぁ・・」その後日本人とアメリカ人の体感温度の違いでしばしば「あつい、さむい」の言い合いになることがあった。

Bed

下が私のベッド、豪くんと買ったおそろいのブルーのシーツが青々としている。しましまの毛布も向こうに見える。手前の本棚、ワープロ(時代を感じる)、サーキュレーター はエリザベスお嬢様の華麗なる私物。寝具もピンクのフリフリでかわいらしい。


« I Remember Berklee ③ | トップページ | I Remember Berklee ⑤ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1125801/49055489

この記事へのトラックバック一覧です: I Remember Berklee ④:

« I Remember Berklee ③ | トップページ | I Remember Berklee ⑤ »