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THE DOLPIN

私は相変わらず月2回、マリさんのところに通っていた。奨学金オーディションの申し込み手続きは、水面下で進んでいたらしく、ある日自宅に案内が届いた。バークリーからの案内らしき英文のものと、試験は東京と大阪であるので、試験地である東京の音楽専門学校からの日本語のものと二通りあった。「あなたは奨学金オーディションの受験資格者に選出されました」と書いてあった。ちらっとしか見なかったが、マリさんが私に見せてくれた案内はカラフルではあったが、とても分厚く、今までどんな勉強をしてきたか、とかどんな先生についていたか、などの質問が書かれており、書くのがとても面倒そうなものであった。私の英語力では、申し込む前に投げ出していただろう。マリさんは私に、今までの音楽歴を聞いてきた。それを全部きちんと英文にし、手続きしてくれたのだ。と思うと、せっかくだから受験するだけしてみようか、という気になった。私は早速マリさんに「案内が届いた」と言ってみせた。「そう、よかったわね。で、なに弾くの?」試験内容は、スケールを弾かせたり、Reading(初見演奏)など、そしてもちろん自由曲の演奏もあり、それはA4の紙2枚に曲のタイトルがびっしり数百曲ほど書かれたリストから選ぶように、ということであった。私は誰もが知っている楽しいスタンダード曲がよいと思い、「{All Of Me}か{Take The A Train}にするつもりです。」と、答えた。するとマリさんは「だめよ、そんな曲。アメリカ人が「オォ~」って言うような曲にしないとね~」そして「これがいいわよ。これならみんな「すごい」って思うわ」と持ってきた曲。それが、Luiz Ecaの「The Dolphin」だった。「Green Dolphin Street」や「Dolpin Dance」なら知っていたが、「The Dolphin」という曲は聴いたことがなかった。マリさんはBill Evans による演奏を聴かせてくれたが、リードシートを追いながら聴くと、シャープ系のコードが多く、進行はジャズの曲に見られるⅡ-Ⅴはあまりないため、現代的ではあるが今の私には弾きこなせそうもないような難しい進行に思えた。しかしその難解な進行に伴うメロディーがとても美しい印象的な曲あった。(きっとこんな難しい曲、ちゃんと弾けなくって、オーディションは落ちるだろう。それでいいのだ)内心そう思いながら練習していたが、この美しい曲を弾くのがとても好きになっていった。

オーディション当日、ジーンズにTシャツのラフな格好をしたやけにハイテンションなバークリーの試験監督は「{THE DOLPIN}を弾きます。」と言った私に「オォ~いいね~」といいながら「それじゃあ、いくよ」とマイナスワン(カラオケ)スタートさせた。マリさんが言ったようにこの選曲に「オォ~」と言ったのだ。私はこのとき選曲の重要さを感じた。

後日、ボストンから奨学金がもらえる、との手紙が届いた。100人受験して、額こそさまざまだが30人はもらえるという。さほど狭き門ではなかったようだが、さすがの私も少しは嬉しかった。しかし、アメリカになんか行けるはずはない。「マリさんになんて言って断ろうか・・・」私は手紙を持ち、マリさんのところへ向かった。しかしこのあと自分の気持ちとは違う方向に進んでしまうことになる。


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